神の使いが忍ぶ鐔
特集
2022.03.15
俱楽部御台へようこそお越しくださいました
「信玄鐔」の百足(むかで)とはまた一味違った百足をモチーフにした鐔を、皆さまと鑑賞したいと思います。
『百足図鐔』
無銘(むめい):制作者の銘が切ってありません
古金工(こきんこう):時代や、古い時代の金工のことを表します。大体室町時代のものだろうということしかわかっておらず、古い時代に作られたということが示されています。
俱楽部御台の刀装具によく出てきますね
木瓜形(もっこうがた):鐔の形のことです。木瓜形は四つの丸みがあるのが特徴です
山銅地(やまがねじ):鐔の素材を示しています。分析技術がまだ発達していない時代の銅のことで、不純物が混ざっていますが、それにより独特な色味が出て、純粋な銅より味わい深さがあるという人もいらっしゃいます
打込毛彫(うちこみけぼり?):「打込毛彫」という名称はどの文献にも出てこないのですが、百足の文様の彫り方を指しています。
毛彫とは、素毛彫(すけぼり)ともいい、もっとも古い基本的な彫金の方法で、彫られた線が髪の毛のように細いことからこう呼ばれています。
毛彫りに使われる工具は「しぶ鏨」(しぶたがね)や「毛彫り鏨」(けぼりたがね)というもので、鏨の刃先が三角形に尖った形をしており、金属を鋭角に細く彫ることができるようになっています。
『百足図鐔』の百足の文様をよく見てみると、一本の細い線で彫られているのではなく、百足文様を形作る線が、細かい点の集まりになっていることが分かります。
またこの細かい点の形が、丸ではなくしぶ鏨を打ち込んで彫られている形であるから、打込毛彫と鑑定書には書いてあるのではないかと思われます。
図工で使う彫刻刀のようにピーっと細い線で彫られているのではなく、点描のように一つ一つ彫ることで百足を表現していますね。
さぞ金工の腕が鳴ったことでしょう。
生物の授業や美術の授業で点描をしたことがある方もいらっしゃると思いますが、作業が細かすぎて全然進まないんですよね(泣)
きっと私だけではないはず…
古金工達、さすがの技術力です。
覆輪耳(ふくりんみみ):鐔をぐるっと囲む縁のことを耳といい、覆輪耳は耳が平地より高く、耳に覆いかぶさるようになっており、平地との段差がハッキリとわかります。
信玄鐔の百足全開!のようなモチーフも勇ましいですが、このようにさらさらっと百足があしらわれた鐔も粋なものですね。
ムカデは軍神である毘沙門天の使いであることや、前にしか進まず、後退しないことから、戦国武将や武士たちに好まれ、甲冑や刀装具に多く取り入れられてきたモチーフです。
この鐔を作らせた人物も、鐔の裏側にさりげない百足文様を刻ませるところに、静かな意思を感じます。
普段は物静かな人物で、派手好みではないけれど、信心深く粋な人だったのかもしれませんね。
鐔のモチーフは同じでも、全く違った顔を見せることを知ることができました。
皆さまは信玄鐔の百足文様と、古金工の百足文様のどちらがお好きでしょうか?
同じモチーフで色々な刀装具を見比べるのも楽しそうですね
いつか企画してみたいです
本日もご来店いただき誠にありがとうございます
皆さまのまたのお越しを心よりお待ちしております
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