サムライ書房

和泉守兼定と共に駆け抜けた、土方歳三の物語

武州多摩に竹刀の音が響き渡る。

道場に一際目立つ防具の剣士がいる。

真紅の面紐に朱塗りの胴という出で立ちで、武道の経験のある者ならそれがどれ程『突っ張った』事がわかるだろう。

天然理心流に入門して1年で武術英名録(江戸を除く関東の剣術家の名鑑)にもその名を連ねる。

 

名を土方歳三という。

後の新撰組『鬼の副長』である。

 

土方は同道場の近藤勇、沖田総司らと共に浪士隊募集に応じて京に登り、幾多の紆余曲折を経て『新撰組』を結成する。

 

新撰組の名を不動のものにした『池田屋事件』の頃、土方に運命的な出会いがあった。

 

主である松平容保より土方に刀が下賜された。

 

和泉守兼定と云う。

 

その刀は11代目兼定のものとされ、池田屋での戦果を伝えるための近藤勇の手紙の記載には2尺8寸(約85センチメートル)と書かれており、現存していない。

 

この他に新選組に対して刀三振を卸し、島田魁が一尺五寸の脇差を依頼した注文書が遺されている。

 

土方歳三所有の兼定はもう一振ある。

鞘を払い、土方は目に刃を映す。

刃長2尺3寸1分6厘というから約70.3センチメートル。

茎(なかご)の指表(さしおもて)側には『慶應三年二月日』、指裏(さしうら)側には「和泉守兼定」と彫られている。

 

鞘は会津漆の表面に炭粉や乾漆粉をまぶして、石の様なざらざらした仕上げの石目塗

鳳凰と牡丹唐草の蒔絵があったという。

鐔は『七夕』で、目貫(めぬき…柄にある装飾品)は枝山椒図で、いかにも兼定らしい。

 

土方は黒糸巻の柄を鐔のすぐ下を力強く握る。

土方の癖だと伝えられる。

優美な刃文を見つつ、土方はこの『相棒』とも云うべき一振りに、言葉にならない言葉で語りかけていた。

 

外の騒がしさで現実に引き戻された。

どうやら出番らしい。

池田屋か四国屋か・・・和泉守兼定を腰にすると、あたかも武者震いするかの様な奇妙な感覚を覚えた。

鬼の副長の口の端が僅かに上がった。

 

土方歳三が使っていた刀はいくつかあり

現存しているものは『和泉守兼定』(11代目兼定と伝わる刀)は土方歳三記念館で見ることができます。

他には『大和守源秀國』『葵紋越前康継』と云われています。

もちろんそれ以前に所持していた刀もあるはずです。

 

そして武士は『二本差し』と言われるように『脇差し』の存在があります。

脇差しの規定は『二尺(約60cm)以下』

脇差しは刀が折れた時の予備という考え方もあったのですが、幕末くらいになると、戦闘目的より侍の身分証明のような意味合いが強くなり小型化が進みますが、土方は元の意味合いを重視❗

規定ギリギリ一尺九寸五分(約60cm)の実戦的な脇差しを所持し、堀川国広と伝えられます。

 

写真にある和泉守兼定は八寸四分(約25cm)で脇差しよりも短い短刀。

短刀の規定は『一尺(約30cm)未満』

短刀は、戦闘用というより「守り刀」としての性格が強いです。

和泉守兼定にこだわった土方。

自らの心の拠りどころとして、兼定の短刀を守り刀のように持っていたかもしれませんね。

 

いくつかの刀を所持した土方は北に北にと転戦

時代も明治となり、戦況は芳しくない

 

榎本武揚が声をかける「土方君❗」

髷を落とした頭は髪も生え揃い、洋装の姿は現代の出で立ちにも近い

振り返った際の髷のない感覚にも慣れた土方は榎本を見やる

「土方君、行くのか?」

「はい、俺は・・・いや新撰組はまだやれます」

手にした和泉守の様な視線を受け、それでも榎本は声を出す

「新撰組というが、もはや近藤君もおらず、新撰組も最早なくなってるのではないか?ここは籠城しては・・・」

土方の手の内で和泉守が異を唱える様に鳴る。

それは土方が鳴らしたのかまたは・・・

「榎本さん、新撰組は終わってねぇとよ。俺とコイツがいる限り」

 

翌日、土方は終生の『相棒』を手に敵陣に挑んだという。

 

「さあ、いこうか❗多摩のバラガキの終わりにお前と花道とは粋じゃねぇか❗」

 

和泉守を抜き払い、かつてのバラガキが雄叫びをあげる

「新撰組、突撃ー❗」

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